マダコのハッチアウト

ある台風の日の海の中・・・。

ガラガラと石が砕け散る音がうるさい波打ち際を離れ、

水深8メートルの海底に着くと、

・・・とても、静かでした。

 

身体を少し、左右に持っていかれるような

うねりだけがありました。

 

蛸壺の中で、タコが握りしめるように抱きかかえていたのは・・・

 

・・・卵。

ムスカリの花束を逆さにしたような、白い房々。

ハッチアウトが終わった房は、糸束のようになっています。

タコの親は、大事そうに、卵の房を撫でていました。

それはとても、丁寧なしぐさでした。

奥から手前へと、房をいざなうように足を動かし、

漏斗(ろうと)と呼ばれる口のような器官を

収縮させたり、広げたりして、

水流を作っています。

ついに、ハッチアウト。

パラパラパラと、

卵が孵っていく・・・。

 

私はなんとなく、

このタコのことが、忘れられませんでした。

 

タコの親は、ほとんど食べずに卵を守り、

孵化を見届けると死んでしまう、という話を聞いたことがあります。

 

その後しばらくして、

このタコは蛸壺からいなくなったので、

生きたのか 死んだのか・・・

見届けることは できませんでした。

赤眼のシャコ

2017/10/28 伊崎

白いウェディングドレスを纏ったような・・・、

赤目のシャコです。

ルビーのような瞳をしています。

体は硝子細工のようでした。

 

一つ一つの細胞が、

集められたビーズのように、

夜の海でキラキラと輝き、

まるで、宝石箱のようでした。

 

NIGHT DIVING -浮遊系- シタビラメの仲間の稚魚

2018/10/15  伊崎

出た!

シタビラメの仲間の稚魚・・・!!

さすがヒラメ、とても薄いです。

ぴろぴろぴろ~ ぴろぴろぴろ~

と、音が聞こえてきそうな感じ。

右へ左へと、泳いでいきます。

まだ子供なので、

体の両側にちゃんと片目ずつ、あるんですね。

大人になると、(地面に着底する生活を送るようになると)、

両目が体の片側に、移動するんでしょうか・・・。

 

私には腕のように見えてしまうのですが、

胸のあたりから下に飛び出ているものは、

「腸」だそうです。

稚魚の間は、このように脱腸し、

少しでも多くの食べ物を取り込むそうです。

 

腸のなかの黄色の粒々は、もしかして、

食べかすなのでしょうか・・・。

それさえも、ライトの光を受けて黄色く輝き、

とても、綺麗でした。

NIGHT DIVING -浮遊系-

2017/10/13-15 伊崎

ヨウジウオの仲間の稚魚。

4㎝ほど。

成魚とは違い透明で、

体のところどころ、

まるで金箔が散らされたような色合いです。

黄金の鎧をまとっているようでした。

太刀魚の稚魚。

メタリックなピンクが綺麗です。1cmほど。

クーマ。

甲殻類の一種のようです。

そして、出ました!

瀬戸内初顔見せの、

ダルマガレイの仲間の稚魚。

ペロンペロンに薄くて、

とっても! キュートでした。

 

プラヌラ幼生の旅

年に一度。今の時期だけ・・・。

プラヌラ幼生を、

体内に宿したアワサンゴ。

いつも、季節によって様々な色合いの緑を

楽しませてくれるアワサンゴですが、

この時期だけは、

黄土色のような、黄が強い色彩になります。

ポリプの中心から、

順番待ちしたアワサンゴの赤ちゃん、

プラヌラ幼生が、放生されます。

ポンっと。

たいていは一瞬の出来事で、

後を追うのが大変です。

約1~2㎜・・・。

ゴマ粒のような大きさです。

時々、二股の子がいます。

プラヌラ幼生は、

まるで意思を持っているかのように見えます。

潮流に身を委ねて流される他の浮遊物とは、

明らかに動きが違うのです。

ふよふよ~ ふよふよ~ と、

地面に着きそうになっても 再び泳ぎ出し、

気に入る場所が見つかるまで、

その旅は続くようです。

早く、良い住処が見つかるといいですね。

NIGHT DIVING -浮遊系ー 太刀魚の幼魚

2018/10/8 レモンの森

3万ルーメンのライトに集まるプランクトンたち。

その中に、折れたカッターの刃のような、

硬質な輝きが見えた。

もしかして、と手の平ですくい上げると、

それはやはり、太刀魚の幼魚でした。

約2㎝。

成魚と同じ特徴である、「太刀」の輝きを、

この若さで既に持っていたのが、驚きであり、感動でした。

 

スチール缶の銀の色合いが、角度によって変わるように、

太刀魚の幼魚はライトの光を受けて、

桃色にも あんず色にも変化する オーロラのようでした。

白色化したアワサンゴ

2017/10/01 レモンの森

水温も上がりきり、元気がなくなってきたアワサンゴのなかには、

褐虫藻が抜け出し、真っ白になってしまったものたちがいます。

部分的に白くなることはありますが、

一株分、全てが白くなるのは、珍しいかもしれません。

 

再びアワサンゴの活性が良くなり、

褐虫藻が戻ってくれば、

いつもの元気な緑色に戻ることができます。

 

しかし、褐虫藻が戻らなければ、待っているのは死です。

この個体は、冬を越せるのだろうか・・・。

ざわざわと 波に揺られ・・・

向こう側が透けて見える、透明な茎。

ありのままの姿を、これからも見守っていきたいです。

元気な時も、そうでないときも。

ホソエガサ

2017/08/27 周防大島 土居

絶滅危惧種のホソエガサ、

通称「人魚のワイングラス」。

土居の海辺、水深2-3mの泥地に、ひっそりと・・・

ほんとうに ひっそりと、

植わっています。

そんなに数はありません。

カイワレ大根よりも か細い茎に、根。

植わるというよりも、砂地にどうにか数本 根が絡まっている、

そんなイメージです。

 

土居の砂浜は砂泥が細かく、

少しの波で砂が舞い上がり、視界が悪くなります。

そして、細雪のように、パラパラと、

傘の上に降りかかる。

私の見たホソエガサはどれも、

その砂にまみれていました。

 

「人魚のワイングラス」というよりは、

「細柄傘-ホソエガサ-」。

その名がぴったりだと、思いました。

 

傘の骨々の間、

黄緑色の粒々が、胞子。

拡大すると、

マスカットのように

艶やかです。

ジョーフィッシュのハッチアウト

2017/08/09 レモンの森

日が落ちて、

夜光虫の瞬きがひとつ、ふたつと増える頃・・・。

水深8mの海底、

几帳面に掘られた巣穴から顔を出し、

辺りを窺うジョーフィッシュ。

再び巣穴に入ったかと思うと、次の瞬間、にょきっ・・・。

溢れんばかり

口いっぱいに卵塊をくわえたそのオスは、

口をパクパクと動かして

卵のハッチアウトを促した。

眼を見開くようにして懸命に行われる

その大胆な行動は、

いつもの臆病な性格の彼らからは、想像もつかない。

ぱら ぱら ぱら と、夜闇のなかに・・・。

産まれたばかりの命はキラキラと光りながら、

瞬きを一つする間に、見えなくなってしまいました。

カブトガニの交接・産卵

2018/07/14 田布施

夏の盛り、真夜中の大潮・・・。

二匹のカブトガニが、ゴゴゴゴゴ・・・

産卵に適した場所を探しに、

繋がったまま、浅瀬へやってきます。

前がメス、後ろがオス。

まるでそういう生物であるかのごとく、

二匹でひとつのまま、移動します。

そして、気に入る場所が見つかったら最後、

2、30分は、そこから動きません・・・。

メスが砂泥の中に潜り込み、卵を産んでいるようです。

その後、産卵が終われば、

繋がったまま 深場へ再び帰っていく・・・。

 

人間の頭よりも大きな、カブトガニ。

2億年の間、その形をほとんど変えていないとか。

太古より続く海の営みの、

すぐ傍らでは工場が、夜も煙を上げています。

古生代から現代へ 陸の景色が様変わりするなか、

まるで円を描くように・・・

この命の連鎖は 一体何度、

繰り返されてきたのでしょう。

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